建設の歴史散歩+

1974~2005まで連載された建設の歴史散歩+エッセイ的な

第一回 谷中の五重塔

『 谷中の五重塔』 ~建設の歴史散歩~ 菊岡倶也 『建設業界』日本土木工業協会 1974年3月号の記事より


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連載の先陣を切るのは谷中の五重塔。私の父は文学少年で、持ち金のほとんどを古書収集に費やしていた。建設業の物書きになってからは、更に本は増え、家も事務所も建物は底が抜けそうだった。連載第一回目に文学が登場するのはなかなからしくて良いと思う。

さて、だいぶ以前のこと、人から、あれはいいですよ是非読んでくださいと勧められた幸田露伴の『 五重塔』。読み始めたらあらほんと、歌舞伎や浮世絵で見得を切るあの型が活字を飛び出して来るようで、登場人物の魅力的なことといったら、特に終盤のテンポの良さ。
読んでみてください。短編ですっきり書棚に収まる姿も魅力的。


主人公に惚れ、小説に惚れた。好きなタイプの男性はと聞かれたら五重塔と答えてもいいかな。
残念なことに五重塔は心中の巻き添えで燃えてしまうけど、江戸の名物は火事と喧嘩と決まってる。今みたいに買収とか、つまらないことで無くなるよりいいかしら。

そうしてある日、五重塔(の跡)の見学に降り立った日暮里駅はハラハラ桜のど真ん中。花見客の喧騒を払い退けるように歩いて、江戸情緒な昼酒へと洒落こんだ私は、奢られ酒ではもう一杯を言い出せず、空の杯を見つめていたっけ。

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※画像には著作権が存在します。※表紙絵は牧野伊三夫さん画筆(全体像がup出来ず部分になってしまっています)※田中良寿さん編の著作目録を活用させて頂いてます※建設産業図書館の江口知秀さんにも多謝を申し上げます。